バッハ先生の調律法
1789年に書かれた「テュルク クラヴィーア教本」(ダニエル・ゴットロープ・テュルク/著 春秋社/刊)を再読していた。調律法に関して、次のような記述が目に留まった。
これって、すなわち平均律なのでは!? オクターブと5度を重ねて行って12音を調整する。5度をわずかに広く取ることにより、5度圏を一巡した時に元の音とぴったり重なるように調整できる。
テュルク氏は「調律に最も必要なのは良い耳である」と述べている。当時の音楽家は、耳だけで平均律に調律できたみたい。スゴイ!
続けて「バッハ叢書10 バッハ資料集」を読んでいて、あれ!?と思った。
[F.W.マールプルク『音楽的整律に関する試論』ベルリン1776年]
かのキルンベルガー氏自身が私や他の人々に度々語ったことだが、あの有名なヨーハン・ゼバスティアン・バッハがキルンベルガー氏も加わって受けていた彼の音楽の授業中に、このキルンベルガー氏に自分のクラヴィーアの調律を任せた。その際楽匠はすべての長3度を高くするようにと強く要求したのである。
ところですべての長3度が幾分か高くなる、つまりそれら全てが唸りを伴うことになる音律にあっては、純正の長3度を得ることは不可能であり、そして純正の長3度が得られないとなれば振動数比81:80だけ高められた長3度もまた不可能となる。
楽長ヨーハン・ゼバスティアン・バッハ氏は粗雑な計算によって損なわれてしまった耳など持ち合わせていなかったから、振動数比81:80だけ高められた長3度などというものが忌むべき音程であることを感じ取っていたに違いない。
それにしても、なぜ彼は24のすべての調によって作曲された彼の前奏曲とフーガを整律の技法と題さなかったのだろう?
「バッハ叢書10 バッハ資料集」(126ページ)
「すべての長3度が幾分か高くなる」調律法って、すなわち平均律なのでは!?
「テュルク クラヴィーア教本」には、「優れた耳を持った人なら平均律を聴覚だけで調律できる」と書いてある。ここに書かれている通りに調律すれば、平均律になるのでは!?
ってことは、バッハ先生の調律法って平均律なの!? ガーン!
この文章、わかりにくいよね? 特に後半「純正の長3度が得られないとなれば振動数比81:80だけ高められた長3度もまた不可能となる。」のあたりが、音律の理論に詳しくない私にとっては、よくわからん。しかし、前半見てると、バッハ=平均律って書いてあるように読める…
もし平均律なら、今までの私がやってきたこと、いろいろ覆るのでは…!?と思ったが、そうでもなかった。そもそも「作曲者の意図通りに弾く」主義ではない。調律に関しても、ルート音変えたりして、むしろこれに反することやってるし…
もう楽譜しか残っていないんだし、好きに弾いて行ったらいいと思う。音色もオルガン音だし!!
実際に弾いて試してみる
試しに、当時を再現するつもりで、チェンバロの音で、調律を平均律にして弾いてみた。曲目は、「平均律クラヴィーア曲集」第2巻第12番フーガ(BWV881)。
→→→そう悪くないのでは? チェンバロ、残響少ないから、平均律でもそんなに濁った感じになんない。ピアノで弾いたら、耐えがたいものがあるだろうが…。チェンバロなら、これもありかもと思った。
次にミーントーン。本当に24調を弾けない調律なのか確認するため。弾いてみたら、確かにマズい感じ。ところどころキレイに調和して響いたかと思うと、別のところは、やたらと濁る…
でも平均律の味気ない響きよりは、私にとっては、ずっと好ましかった。調和してるところが、とにかくキレイ。調和←→不調和のメリハリも、いい感じだし…。
次、ヴェルクマイスター第1技法第3法。ルート音はC。これは、とてつもなく美しかった。本当に同じ曲?ってくらいキレイに響いた。協和する音が楽器全体を揺らしてる感じで、ドーン!と響いて豊かなサウンド。チェンバロ音なので残響少ないけど、打鍵した瞬間、調和して響くので美しかった。
平均律のくすんでるつまんないサウンドとは対照的。バッハ先生、案外センス悪いかも…
最後、キルンベルガー第3法。これが……意外や、平均律と同じくらいつまらないサウンドだった。なんで? 不等分律だよね? どこも調和しないのだろうか…?
というわけで、私にとっては、この曲はヴェルクマイスターで決まり! 一択!! 他は考えられない。最後にもう1回、ヴェルクマイスターで弾いた。美しい!!
その後、オルガン音で弾いたよ! すごい!! チェンバロの500倍くらいイイ!! 豊かな響き! 音引っ張れるから、和音がきれい! 音の重厚感が尋常でない! サウンドの厚みがすごい!! もう、キーボード全体が共鳴して、轟いている感じ!!
庶民がこんなサウンドを体験できるなんて、300年前には考えられなかったから、今の世に生まれて本当に幸せだと感じた。
「バッハの調律は平均律ではない」説を流布することになった著作を、メルカリに注文。『音律について 上巻』(ヘルベルト・ケレタート/著、シンフォニア/刊)。あんま期待できないかもしれないが…。
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2025-01-07:J.S.バッハの調律法は!? その真相
カテゴリー:古典調律

